ミネルバは、広い海を横断中
そして、一週間後に迫る9月1日は、俺の誕生日

「一日、誕生日なんだ〜。」
「へぇ〜へぇ〜へぇ〜。」
「オメデトウ、よかったな〜。」

機体の整備中、さりげなく主張する俺に、ヨウランとヴィーノは冷たかった。

「俺、1日が誕生日なんです。」
「へ、へぇ・・・。」

めげずに、運はなさそうだけどお金は持っていそうなザラ副隊長にも声を掛けたけれど、あからさまに目を逸らされた。

「俺・・・」
「今忙しい。急ぎの用か?」
「ごめん、なんか言った?聞いてなかった。」

レイとルナにも軽く冷たくあしらわれ、俺、実は嫌われてんの?と思い、落ち込だ一週間

こうなりゃ、誰に祝ってもらえなくとも、せめて憧れの隊長にだけは、「おめでとう」と言って欲しい・・・!
そういきり立ち、部屋に向かった。

『はい?』
「あ、シン、ですが・・・」
『えぇ〜?シン君・・・?』

とてつもなく迷惑そうな声に、思わず固まる。

『ちょっと忙しいから、後でね。ちなみに今週は忙しいから仕事以外で話し掛けないで。』

俺はその場に泣き崩れた。






ミネルバクラブ






孤独に迎えた誕生日

「はーい、一名様ごあんな〜い!」

シンの部屋に訪れた着物姿のに強引に腕を引かれて向かった食堂は、豪華に飾られてあり、シンは驚きに瞳を瞬かせた。
皆が一斉に口を揃え、「おめでとう」と祝いの言葉を並べる。

「え?え?」

訳がわからずに周囲を見渡すシンに、ルナマリアが厭きれた面持ちで声を掛けた。

「やぁーね、誕生日に皆が急に余所余所しくなるのなんて、秘密でお祝の準備してたってお約束じゃない。」
「で、でも・・・俺・・・皆に嫌われてそうだなって思ってたから。特にザラ副隊長に。」

ボソリと付け加えた名前に、しん・・・と静まり返る。
気まずい空気が漂う中、一同の視線が集中したアスランは、ごほんと咳払いを一つ

「よし、始めるぞ!」
「え!否定はナシ!?」

突っ込むシンを他所に、レイがシンにメニューを差し出した。

「お客様、ご注文はいかが致しましょう。」
「お、お客!?で、でもこれお酒しか載ってないっていうか・・・え、いや、そんな起きた早々にお酒って・・・」
「ドンペリいっとく?白?ピンク?ゴールド?ロマネコンティーなんていかが?あ、ブランデーもあるよ。ルイ13世とか。」
「いや、いかがってそんな・・・」

顔を引き攣らせるシンに、レイは無言でシンからメニューを取り上げると、司会のメイリンを呼び寄せて耳打ちをする。
笑顔で頷くと、メイリンがマイクを片手にはつらつとした声をあげ、勢い良く手を振り翳した。

「ドンペリはいりまーす!」
「え゛ぇー!?頼んでないんですがァ!」

一斉に歓声が上る中、1人盛り上がりについていけないシンが喉を枯らして張り叫んだ。

よくよく見れば、は髪を結いしっとりと着物、ルナマリアは際どいスリットの入ったチャイナ服、メイリンはマニアックにセーラー服、そしてタリアは胸元が大きく開いたイブニングドレスだ。
何のお店ですか?と聞きたくなるが、とても口を挟む余裕がない。

「きゃー、シンちゃん太っ腹ー!」
「はァ!?」

しっとり系ママさんの格好をしつつも、隣で異様に盛り上がるに、シンが目を見開く。

「え、ちょっ、まッ・・・!」
「へぇ、無駄に高いのねぇ・・・」

ルナマリアがソファに座って足を組んだまま、メニューを見てボソリと呟く。
シンは、ガクガクと震えながらルナマリアを見た。

なんだかとっても、自分の給料から差し引かれそうな予感だ。

積み上げられたシャンパンタワーに、ヨウランとヴィーノがシャンパンを注ぐ。
グラスを満たしていく薄い琥珀の液体

タリアがピラミットの頂点にあるグラスを手に取り、軽く拭いシンの差し出した。

「おめでとう、シン。」
「あ、ありが、とう、ございます。」

たわわな胸の谷間に目を取られつつ、ドギマギとしながらグラスを受けとる。

こ、これが、25万のお酒・・・!?

グラスを持つ手も思わず震える。

「さぁ、くいっと。」

隣からが手元を覗き込んで、にこりと艶やかに笑みを浮かべた。
やんわりと弧を描く口元と瞳に、早くも酔いそうになる。

「ぃ、いただきます!」

シンはぎゅっと目を瞑り、一気にグラスの中味を飲み干した。
喉に少し焼け付くような感触と、爽やかな口当たり。

隣で手を叩くが、空になったグラスに、更に注ぎ込み微笑んだ。

「どう?」
「あっ・・・おいしい。」
「そりゃ、25万のお酒ですから。」

驚いたように感想を述べるシンに、ぼそりと突っ込むルナマリア
シンの胃がキリキリと悲鳴を上げた。

「お腹すいたでしょ?何か食べる?」

ソファの傍らにタリアが座り、その反対にが座る。
すると、が身を乗り出し、タリアに向かい口を尖らせた。

「駄目ですよ、艦長。シン君は妹系が好きなんです。そこはメイちゃんが座るべきです。」
「あら、案外お姉さま系に目覚めるかもしれないじゃない?」
「何言ってるんですか。お姉さまはちょっと図々しいんじゃないですか?」
「言ってくれるじゃない、さん。」

シンに腕を絡め、バチバチと火花を散らす2人
アスランとアーサーが、おずおずと仲裁に入った。

「ま、まぁそれくらいで。今はシンの誕生パーティーを・・・」
「そうですよ、確かにお姉さま系はちょっと図々しいですが、人妻の魅力で勝負ですよ、艦長!」

アーサーの言葉に、タリアがすくりとソファから立ち上がる。
にっこりと笑みを浮かべるタリアの額に浮き上がる青筋を、アスランは見た。

「ちょっと、いらっしゃい、アーサー。」
「は、はい?」
「たっぷり可愛がってあげるわ。」
「え?え!?」

縋るように周囲を見渡すが、誰も助けてはくれない処か、目を逸らされる。
タリアに引き摺られて出て行くアーサーを、皆は哀れんだ面持ちで見送った。

「じゃあ、あたしが隣に失礼しまーす。」

セーラー服のメイリンが、空いた席にすとんと腰を下ろす。
そして、くりっとした瞳でシンを見上げた。

「今日はね、誕生日だからシンのこと、特別に『お兄ちゃん』って呼んであげるね?」
「いや、いいよ・・・」
「遠慮しなくていいよ、お兄ちゃん。あ、でも今日だけだし、勘違いして今後ストーカーとかにならないでね?あたし、シンのこと好きじゃないし。」
「うわっ、何気にムカツクことをさらりと・・・」

ピクピクと顔を引き攣らせるシンが、無意識に握り締めた拳を振るわせる。

「なんなんですか、これ?」

そして、助けを求めるように、シンはアスランを見上げた。

「やっぱり気に入らなかったみたいだぞ?やっぱり、セーラ服よりメイド服のほうが絶対シンの好みだと・・・」

途端に、アスランを中心に輪を描き、臨時会議に突入する

「やだ、なんかキモーイ。アスランが言うとより一層キモイのは何故?」
「俺に聞くな!失礼な、メイド服は男のロマンだぞ。」
「うわっ、副隊長。真顔でそういうこと言うのやめてもらえません?セクハラで訴えますよ。」

ヒソヒソと小声で告げたアスランに、が顔を顰めて口を尖らせる。
憤慨するアスランに、ルナマリアが顔を顰めて身を引いた。

「だから、そーいう問題じゃないでしょ!確かに好きですが。」

そんな達に、会話が丸聞こえなシンは、真っ赤な顔で髪を掻き毟る。
は目を瞬かせながら振り返り、シンを見上げてポンと手を叩くと、再びシンに背を向けてヒソヒソと会議に戻った。

「あ、分かった!猫耳が足りないんだよ、きっと。」
「違う、きっともっと年下が好みなんだ。」
「うわっ、なんか背筋が寒いんですけど・・・」

アスランの言葉に、メイリンが腕を擦る。

「だぁーかぁーらッ!違いますよ!年下は好きですけど、それはあくまでも萌え要素であって、好きなタイプとはまた別・・・」

シンはアスランを押し退けて会話の輪に入ると、一気に捲し立てた。
そして、集中する視線にハッと青褪め、口を閉ざす。

「・・・好きなのね、やっぱり。」
「好きなんだね、やっぱり・・・」
「悪いか、チクショー!?」

シンを見ながらヒソヒソと囁きあうホーク姉妹に、シンは開き直り、泣きながらテーブルに拳を叩き付けた。

「しかし・・・、そうなるとやはり、シンの誕生日プレゼントは、シスプリがよかったか?」
「いえ、調査したところ、シスプリは購入済みでした。」
「ギャー!お前、何俺の私物漁ってんだよ!ベッドの下に隠しておいたのにィー!?」

首を捻るアスランに、レイが淡々とした面持ちで口を挟む。
すると、は不思議そうに小首を傾げた。

「『シスプリ』ってなに?」
「えーっとなぁ・・・、突然12人の妹が出来てっていうゲームだ。」
「へぇ〜」
「い〜やぁ〜だァー!?よりによって隊長にバラさないで、俺の秘密!!」

頭を抱えて泣き叫ぶシン
すると、レイがポンとシンの肩を叩いた。

「安心しろ。すでに皆勘付いていた。」
「ぅ、嬉しくないんですが・・・そのフォロー」

ガクリと項垂れるシンに、はしゃがみ込んで顔を覗き込んだ。

「それで、シン君は何が欲しい?」
「え?」
「私としては、1日隊長権とか、考えてたんだけど。」
「いえ、そんな・・・お気遣いなく。」

頬を染めて首を横に振るシンに、はくすりと笑みを浮かべた。

「シン君ってば、遠慮しなくていいんだよ?なんでも言って。何か残る物の方がいいかな?」
「えっ・・・、いえ、ほんと・・・あっ!」

シンが思いついたようにを見上げる。
「何々?」と身を乗り出して首を傾げるに、シンはおずおずと口を開いた。

「あ、あの・・・じゃあ、隊長、俺のこと、君つけて呼ぶのやめてもらえますか?」
「え?」

がきょとんとした面持ちでシンを見る。
シンは居た堪れなくなり、もじもじと下を向いた。

「いや、だって、隊長いつも俺だけそう呼ぶし・・・」
「そんなことでいいの?本当に遠慮しなくていいんだよ?」

よしよしと頭を撫でるに、シンが耳まで赤くなり、俯く。
そして・・・にすとんと凭れ掛かるシン

「シン?あー・・・、アスラン。」
「どうした?」

覗き込んだアスランが苦笑を浮かべる。

「寝てる・・・」
「なぁに、たった一杯でダウンなの?」

厭きれたルナマリアが肩を竦めた。
も苦笑を浮かべ、アスランにソファを指差した。

「レイ、毛布毛布。アスランはソファに寝かせて。」
「全く、手間の掛かる・・・」

ブツブツと小言を漏らしながら、アスランはシンをソファに寝かせる。
はレイが持ってきた毛布をシンに掛けると、ルナマリアがに耳打ちをした。

「隊長、ここは膝枕ですよ!」
「そっか!じゃあメイちゃんよろしく。」
「何言ってんですか、隊長のが絶対喜びますよ!」

メイリンが拳を握り締めて力説し、ルナマリアが深く頷く。
「そうかな?」と腑に落ちない面持ちで呟きながら、はソファに腰を下ろし、そっとシンの頭を膝に乗せた。

「じゃあ、俺はお前の分の仕事も片付けるとするよ。」
「え、アスラン行っちゃうの?」
「わたしもそろそろ交代なんで。」
「後で片付けに来ます。」

ゾロゾロと部屋を出て行く一同に、はぽつんと取り残され、口を尖らせる。
帯で締め付けたお腹が苦しい。

膝の上で、1人呑気に寝るシンを見下ろすと、は脱力したように苦笑を浮かべた。

「シン、着物にヨダレ垂らしたら減給だからね。」

が告げると、へらっとした幸せそうな笑みが返って来る。
思わずくすりと笑みが漏れた。

「お誕生日おめでとう、シン。」

軽くシンの頬に口付けた瞬間、入り口からガシャンと何かを落とした音が響き、はビクリと飛び上がる。

、お、おま・・・」
「ギャー!いやー!?何もしてない、してないィー!!」

蒼白な顔でぷるぷるとを指差すアスランに、は膝の上のシンを突き飛ばし、部屋から全力疾走で逃げ出していく。
それを必死に追いかけていくアスラン

「んんっ・・・頭いったぁ・・・」

床に頭を叩き付けられたシンが、頭を擦りながら目を覚ます。
廊下から、とアスランの怒鳴り声の様な雄叫びが響いてくる。

「何騒いでんだろ・・・煩いな・・・」

何も知らないシンは、迷惑そうな面持ちで「特に副隊長」と呟くと、再び眠りに落ちるのだった・・・




















END

あとがき
椎名チエ様のサイト『es-エス-』の一周年のお祝いに贈らせていただきました。
『ミネルバの隊長ヒロイン(ザラさんは副隊長)が皆でシンたんのお誕生日をお祝いしてあげるドッキリ企画/わいわいと楽しい感じのギャグ』でした。

チエ様、一周年おめでとう御座います^^
リク頂いた傾向の斜め下の方を行った感はヒシヒシなのですが、す、少しでも楽しんでいただければ幸いで御座います。
シスコンシンは、成長すればきっと良きロリコンになり、ヒロインはすでにショタ道(もしくは弟道)に足を踏み込みかけていそうな感は、きっと勘違いではないはず。
お粗末さまでした(敬礼)
そして、これからもももは、『es-エス-』を応援しつつ、チエ様に着いて(憑いて)参ります!
2006/9/1
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